過去の研究会

「ベトナム中国二国間関係下で揺れ動くベトナム華人関する歴史的研究」

成果報告会

日時:2019年12月9日(月)13:30-18:00
会場:東京大学駒場キャンパス18号館4階コラボレーションルーム1
(京王井の頭線駒場東大前駅東大口下車徒歩5分。
キャンパス内地図は下記ウェブページをご参照ください)
https://www.u-tokyo.ac.jp/campusmap/cam02_01_17_j.html
主催:科研B(ベトナム・中国二国間関係の下で揺れ動く
ベトナム華人に関する歴史的研究・代表伊藤正子)
共催:日本ベトナム研究者会議

13:30~13:35 開会あいさつ
13:35~14:15 第一報告 グエン・ヴァン・チン(ベトナム国家大学
ハノイ校人文社会科学大学文化人類学部)
14:15~14:55 第二報告 伊藤正子(京都大学)
14:55~15:10 休憩
15:10~15:50 第三報告 下條尚志(静岡県立大学)
15:50~16:30 第四報告 小田なら(千葉大学)
16:30~16:40 休憩
16:40~17:00 コメント 三尾裕子(慶応大学)
17:00~18:00 討論

グエン・ヴァン・チン氏の発表のみ英語で、その他は日本語で行います。

報告要旨
グエン・ヴァン・チン(Nguyễn Văn Chính)
“Living between two nations: How was the ethnic Chinese
in Quang Ninh province affected by the border war 1978-1979?”

This paper examines the impacts of border war 1978-1979
on the Chinese communities who lived on the borderlands
of Quang Ninh province bordering with Guangxi of China.
From the second largest ethnic group (just after
the ethnic majority Kinh) and had an important socio-economic
position of Quang Ninh, the ethnic Chinese almost became
invisible after the war. As we are going to argue,
the relationship between two states Vietnam and China
had great impacts on ethnic groups originated from China,
and the ethnic Chinese are most suffered by changes
of bilateral relations between two states.

伊藤正子「ベトナムの民族分類政策に翻弄された中国系住民-
運命が暗転した『華人』と安泰だった『サンジウ』」

所属民族(エスニックグループ)を分類・確定することで、
それぞれの民族にふさわしい政策が実施できるとするベトナムの
民族政策が、華人に関しては負の影響しか及ぼしてこなかった
ことを、1978年の中国系住民の大量出国事件を例に明らかにする。
中国に起源をもつという同じ歴史的背景を持つにもかかわらず、
華人(ホア)と認定されたか、それ以外の少数民族(サンジウ)、
または主要民族キン(ベト)に含まれると認定されたか(明郷)
によって、同じベトナム国民であったはずのかれらの運命は
大きく分かれた。ベトナムの民族分類の恣意性が生んだ悲劇に
ついて明らかにする。

下條尚志「混淆と移動から考えるメコンデルタの『華人』」

メコンデルタは植民地化以降、輸出米生産の発展とともに
中国から多数の移民が流入し、在地社会と結びついた多民族
社会が生成された。その社会は、20世紀半ば以降に国民国家
ベトナムに組み込まれると、戦争と社会主義を背景に多数の
華人が国外流出したことで、激変したと考えられてきた。
しかし、そこで「華人」という存在が見えにくくなっている
背景を、国外流出という観点のみから理解すべきでない。
本発表は、地域社会で長期的に生じてきた民族的混淆と国境を
越えた人間の移動という観点から、なぜメコンデルタにおいて
「華人」という存在が見えにくくなっているのか、また
地域社会のなかで「華人」がいかに認識されているのかを検討する

小田なら「現地化する医療―ベトナム伝統医療における『華人』」

これまで、ベトナムの伝統医療は中国の伝統医療に多大な
影響を受けながら、およそ14世紀以降にはベトナムの医学を
独自のものとして差別化する概念が用いられるようになった
とされてきた。しかし、少なくとも20世紀後半以降にはベトナム
伝統医療に多数の華人がかかわっていた痕跡が見られるものの、
その実践は必ずしも中国の伝統医療技術がベトナムの伝統医療に
影響を及ぼすという一方向的な営みではなかった。本報告では
その背景を手がかりに、華人とされる人々の医療実践も現地化
していく一例を示す。

(なお、同内容の報告会を12月7日(土)に、京都大学で
東南アジア学会関西例会として開催する予定です。
京都でのコメンテーターは北九州市立大学の篠崎香織さんです。)